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那覇地方裁判所 昭和57年(行ウ)5号 判決

原告 宮城伸昌

被告 那覇税務署長

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

1  被告が昭和五五年一二月二七日付けで原告の昭和五二年分、昭和五三年分及び昭和五四年分の各所得税についてした各更正のうち、所得金額が昭和五二年分については一四五万五八〇〇円を、昭和五三年分については一四〇万〇九六一円を、昭和五四年分については一四二万一〇〇〇円をそれぞれ超える部分及び各過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  課税経緯

原告は、肩書地において家庭用電気器具の小売業を営んでいる者であるが、原告の昭和五二年分ないし昭和五四年分(以下「本件係争各年分」という。)の各所得税に関し、原告のした各確定申告、これに対する被告の各更正(以下「本件各更正」という。)及び各過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)、これに対する原告の異議申立及び審査請求とこれについての異議申立棄却決定及び審査請求棄却裁決の経緯は、それぞれ別表一の1ないし3記載のとおりである。

2  本件各更正は、以下に述べるとおり違法である。そして、本件各賦課決定は、本件各更正を前提としてなされたものであるから、これも違法である。

(一) 税務調査の違法性

本件各更正に先立ち、被告が行つた本件係争各年分の原告の所得税に関する調査(以下「本件調査」という。)は、次のとおり違法なものであつて、被告は、これに基づいて本件各更正をしたものであるから、本件各更正は違法である。

(1) 質問検査の必要性の欠如

質問検査は、納税者の確定申告に誤謬があるなど申告以外にも納税義務があることが課税庁において相当程度に推認することができる場合に限りその必要性が認められるべきものであるところ(所得税法二三四条)、本件調査においてはその必要性を欠いていた。

(2) 調査理由等の開示の拒否

調査に当たり質問検査権を行使する場合には、その理由及び必要性について具体的に開示すべき義務があると解されるところ、本件調査に当たつた被告の部下職員は、原告が右理由の開示を求めたにもかかわらず、これを拒絶した。

(3) 第三者の立会

調査は納税者の応諾を得て行われる任意のものであるから、納税者は調査に応ずるにつき第三者の立会を条件とすることもできるものと解すべきところ、本件調査に当たつた被告の部下職員は、原告が第三者の立会を求めたにもかかわらず、これを拒絶した。

(4) 反面調査の必要性の欠如

納税者の取引先について反面調査を実施することは、納税者の信用を損ないかねない不利益をもたらし、また、取引先自身は、たまたま納税者と取引しているというだけの理由で質問検査の受忍を求められる訳であるから、一般の調査に比して厳格な必要性を要し、納税者に対する調査のみによつては課税標準及び税額等の把握ができない場合に限り、かつその限度で反面調査を実施することができると解すべきであるところ、本件においては、原告に対する質問検査によつてその課税標準及び税額等を把握することが可能であつたにもかかわらず、原告に対する質問検査がなされないまま反面調査を実施した。

(二) 推計の必要性の欠如

所得税は納税者の所得の実額に対して課税されるのが原則であり、推計課税は、納税者の所得の実額を調査し計算することができない場合に限つて例外的に許容されると解すべきである。

しかるに、本件においては、前記(一)に述べたように、被告の部下職員は質問検査の必要性がないのに臨場し、また、同職員の質問検査が適正になされれば原告はこれに協力する意思を有していたのに、原告に対する質問検査をすることもなく、違法に反面調査を実施して、推計課税に及んだものである。従つて、そもそも原告の各確定申告によつて所得の実額は把握されていたものであるし、仮に右各申告以外にも納税義務があることを推認するに足りる事情が認められたとしても、原告に対する適正な質問検査によつてその所得の実額を把握することができたのであるから、推計の必要性を欠くものである。

(三) 推計の合理性の欠如

本件各更正は、後期4(二)のとおり合理性を欠いた推計により原告の事業所得の金額を過大に認定している。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)のうち、(1)の主張を争い、(2)は、原告が被告の部下職員に対して調査の理由の開示を求めたことを認め、その余を争い、(3)は、原告が被告の部下職員に対して第三者の立会を求めたこと及び同職員がこれを拒絶したことを認め、その余を争い、(4)は、被告の部下職員が反面調査を実施したことを認め、その余を争う。

(二)  同2(二)は、被告が推計による課税をしたことを認め、その余を争う。

(三)  同2(三)の主張は争う。

三  被告の主張

本件各更正は、以下に述べるとおり適法である。従つて、本件各更正を前提とした本件各賦課決定もまた適法である。

1  本件調査の適法性

(一) 調査及び質問検査の必要性

質問検査は、税務署の調査権限を有する職員において、申告の体裁・内容、帳簿等の記入・保存の状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、客観的に必要性があると判断される場合に実施することができるものであるが、その必要性とは、納税者の確定申告に誤謬があるなど申告以外にも納税義務があることが課税庁において相当程度に推認することができる場合に限られるものではなく、申告の真実性、正確性を調査するために必要であると認められる場合も含むものである。

そして、本件においては、次のとおり、本件係争各年分の申告所得額の適否を調査するために質問検査を行う必要があると認められたものである。

(1) 原告の提出した本件係争各年分の各確定申告書には、所得金額の記載があるのみで、収入金額及び必要経費の記載がなく、また、収支明細書その他右所得金額を裏付けるに足りる帳簿、伝票等が添付されていなかった。

(2) 原告の右各申告所得額は、同業者に比し低額であつて、過少の疑いがもたれた。

(3) 原告については従前調査を実施していなかつたこともあり、この際調査により原告の右各申告の適否について確認する必要があると認められた。

(二) 調査理由等の開示

調査に当たり質問検査権を行使する場合に、その理由及び必要性について具体的に開示すべき義務はないから、本件調査に当たつた被告の部下職員がこれを開示しなかつたとしても、本件調査がこれにより違法となるものではない。

(三) 第三者の立会

第三者の立会は、質問検査を行ううえの法律上の要件ではなく、また、調査に当たり質問検査権を行使する場合に、その質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきであるから、本件調査に当たつた被告の部下職員が第三者の立場を拒絶しても、本件調査がこれにより違法となるものではない。

しかも、原告が立会を求めた第三者は、原告が所属する民主商工会の会員等であり、本件調査に当たり右の者の立会を必要と認めるに足りる特段の事情もなかつた。

(四) 反面調査の必要性

前記(三)のとおり、調査に当たり質問検査権を行使する場合に、その質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきであるから、本件のように原告が任意に調査に応じない場合においては、合理的な判断により、反面調査を行うことができるものである。

2  推計の必要性

(一) 所得税法は、青色申告書に係る更正をする場合には、推計による方法を制限している。(同法一五六条括弧書)けれども、白色申告書に係る更正をする場合には、その手続要件について何ら規定していないのであるから、税務署長の裁量により実額課税又は推計による課税のいずれの方法をとることも許されると解すべきである。

(二) 仮に所得税が所得の実額に対して課されるのが原則であるとしても、納税者がその収支を明らかにすることができる帳簿書類等の資料を備え付けていないとき、備え付けている帳簿書類等の資料が不正確なとき、あるいは納税者が調査に非協力的であるときなどは、例外的に推計による課税が許されるものである。

本件において、被告の部下職員は、昭和五五年九月一九日及び同年一〇月三日の二回にわたり、原告方に赴き、原告に対して、本件係争各年分の所得金額算定の資料となるべき帳簿、伝票等の提示を求めたにもかかわらず、原告はこれらの書類を一切提示せず、また、同職員の事業に関する質問に対しても応答せず、非協力的な態度に終始したため、被告において、本件係争各年分の所得を実額で把握することができなかった。

3  事業所得の金額の算出根拠

原告の本件係争各年分の事業所得の金額及びその算出根拠は、別表二記載のとおりであり、そのうちの各項目の内容については以下に述べるとおりであつて、本件各更正に係る事業所得の金額はいずれも右算出金額の範囲内にあるから、本件各更正及び本件各賦課決定は全て適法である。

(一) 売上金額

別表二の〈1〉欄記載のとおりであり、その算出根拠は別表三記載のとおりである。すなわち、次の(二)により把握した売上原価(仕入金額。別表三の〈1〉欄記載の各金額)を基にして算出するものであるが、家電器具販売業においては顧客からの注文品について在庫がない場合には同業者間で仕入金額をもつて互いに融通するという慣行があり、本件係争各年分の右売上原価(仕入金額)のうち別表三の〈2〉欄記載の各金額は、右慣行により原告が同業者に対して仕入金額をもつて融通した商品(以下「原価販売商品」という。)に係る仕入金額であり、これについては売上による差益が生じないことが認められたので、右金額をそれぞれ右売上原価(仕入金額)から控除して各年分の原価販売商品以外の商品に係る仕入金額を算定し(別表三の〈3〉欄記載の各金額)、これに昭和五二年分については別表七の、昭和五三年分については別表八の、昭和五四年分については別表九の類似同業者の各売買差益率(売上金額に対する売買差益金額(売上金額から売上原価を控除した金額)の割合)の平均値(別表三の〈4〉欄記載の各割合)を適用して各年分の原価販売商品以外の商品に係る売上金額(別表三の〈5〉欄記載の各金額)を算出し、右売上金額に原価販売商品に係る売上金額(別表三の〈6〉欄記載の各金額。売上による差益が生じないので、その仕入金額と同額になる。)をそれぞれ合算して、算出した。(別表三の〈7〉欄記載の各金額)。

(二) 売上原価

別表二の〈2〉欄記載のとおりであり、原告の仕入取引先である沖縄ソニー販売株式会社及び沖縄日立家電株式会社からの本件係争各年分の仕入金額の合計額をもつて売上原価としたもので(原告の年初、年末の商品棚卸金額が不明であるが、業態の変化等特段の事由が存しないので、年初、年末の商品棚卸金額を同額として扱つた。)その明細は別表四記載のとおりである。

(三) 一般経費

別表二の〈3〉欄記載のとおりであり、その算出根拠は別表五記載のとおりである。すなわち、(一)により算出した本件係争各年分の売上金額(別表五の〈1〉欄記載の各金額)に、昭和五二年分については別表七の、昭和五三年分については別表八の昭和五四年分については別表九の類似同業者の各一般経費率(売上金額に対する一般経費の割合)の平均値(別表五の〈2〉欄記載の各割合)を乗じて算出したものである(別表五の〈3〉欄記載の各金額)。

(四) 雇人費

別表二の〈4〉欄記載のとおりであり、類似同業者の本件係争各年分の雇人一人当たりの平均的な給料賃金を算定し、原告の雇人を各年分とも二人として、算出したものである。

(五)店舗賃借料

別表二の〈5〉欄記載のとおりであり、賃貸人四條昌信に対して支払つた金額である。

(六) 雑収入

別表二の〈6〉欄記載のとおりであり、本件係争各年分において、原告が仕入取引先である沖縄ソニー販売株式会社及び沖縄日立家電株式会社からリベートとしてそれぞれ支払を受けた金額で、その明細は別表六記載のとおりである。

4  推計課税の合理性

(一) 別表七ないし九の類似同業者は、原告の住所地を管轄する那覇税務署管内に事業所を有して家庭用電気器具小売業を営む個人のうちから、本件係争各年分について、次の〈1〉ないし〈5〉のいずれの基準にも該当する者であり、被告が、沖縄国税事務所長の被告に対する通達に基づき、右の基準により選定したものである。

〈1〉 青色申告の承認を受けていること

〈2〉 年間を通して家庭用電気器具小売業を営んでいること

〈3〉 家庭用電気器具の売上原価の金額が次の範囲内であること(原告の売上原価の金額の半分から二倍まで)

(ア) 昭和五二年分 二一〇〇万円以上八四〇〇万円以下

(イ) 昭和五三年分 二五〇〇万円以上一億〇二〇〇万円以下

(ウ) 昭和五四年分 二四〇〇万円以上九七〇〇万円以下

〈4〉 災害等により経営状態が異常であると認められる者でないこと

〈5〉 税務署長から更正又は決定処分がなされている場合には、国税通則法又は行政事件訴訟法の各規定による不服申立期間及び出訴期間が経過しているか、当該処分に対する不服申立の処理及び訴訟が終結していること

(二) 右基準により選定した類似同業者は、本件係争各年分とも七名であり、これら類似同業者の各年分の申告書に基づいて、別表七ないし九記載のとおり、それぞれ各年分の平均売買差益率、平均一般経費率及び雇人一人当たり平均雇人費を算定したものである。

(三) 原告は、那覇税務署管内において家庭用電気器具の小売業を営んでいる者であつて、右の基準で選定した類似同業者は、業種が原告と同一であり、業態及び営業規模も原告と類似している。

そして、立地条件等の営業に係る個別的特性は類似同業者の平均値に包摂され平均化されているとみることができるのであるから、被告が、類似同業者の平均売買差益率及び平均一般経費率を用いて原告の本件係争各年分の売上金額及び一般経費を推計し、また、雇人一人当たりの平均雇人費により雇人費を推計したことには合理性があるというべきである。

四  被告の主張に対する原告の認否及び反論

1  被告の主張1(本件調査の適法性)について

同(一)のうち、(1)の事実は認め、その余は争い、同(二)ないし(四)の主張は争う。

2  同2(推計の必要性)について

(一) 同(一)の法律上の主張は争う。

(二) 同(二)につき、前段の法律上の主張は争い、後段の事実のうち、被告の部下職員が、昭和五五年九月一九日及び同年一〇月三日の二回にわたり原告方に赴いたことは認めるが、その余は否認する。原告は、調査のため質問検査に訪れた被告の部下職員に対し、税務調査を受ける意思のあることを表明するとともに、適正妥当な質問検査を受けたいこと、その状況を見聞することが勉強になること等の理由から、民主商工会事務局員や同業者らの立会を認めるよう求めたところ、同職員は、これを拒絶し質問検査に着手しなかつたものであつて、被告の部下職員が本件係争各年分の所得金額算定の資料となるべき帳簿、伝票等の提示を求めたとか、事業に関する質問をしたとかは全くなかつた。

3  同3(事業所得の金額の算出根拠)について

(一) 同(一)(売上金額)のうち、原価販売商品に係る仕入金額が別表三の〈2〉記載の各金額であることは認めるが、その余は争う。

(二) 同(二)(売上原価)の事実は認める。

(三) 同(三)(一般経費)は争う。

(四) 同(四)(雇人費)、(五)(店舗賃借料)、(六)(雑収入)の事実は、いずれも認める。

4  同4(推計課税の合理性)について

(一) 同4の主張は全て争う。

(二)(1) 被告の行つた同業者比率による推計に合理性があるといえるためには、類似同業者とされた七名の者の営業について、規模、形態、年数、立地条件等営業の諸要素が原告のそれとそれぞれ客観的に類似していなければならないにもかかわらず、被告の主張4(一)によれば、那覇税務署管内に事業所を有して家庭用電気器具小売業を営む個人のうちから、同4(一)記載の〈1〉ないし〈5〉のいずれの基準にも該当する者を、類似同業者として選定したというにとどまるものであり、営業の規模については、個人営業で売上原価の金額が原告のそれの半分から二倍までの範囲内の者であるという以外には考慮されておらず、更に営業の形態、年数、立地条件等は一顧だにされていないものである。しかも、被告は、右類似同業者の住所、氏名を伏しているばかりか、その営業の規模、形態、年数、立地条件等営業の諸要素を明らかにしないので、原告のそれと比較検討することができず、これに対する反証の手段を有しないものであつて、公平の見地からみても、また、訴訟における信義則からみても許されないといわなければならない。

従つて、被告の行つた同業者比率による推計には合理性がないものである。

(2) また、被告の行つた同業者比率による推計は、七名の類似同業者の平均売買差益率及び平均一般経費率を用いるものであるが、原告の店舗は市街地を離れた識名霊園地帯に隣接する住宅地域の一角にあつて購買人口が少なく、また、大型家電販売店の影響も大きいので、軽貨物自動車を用いて買主を探して商品を販売配達するといういわゆる外交販売によらざるをえないところ、これ自体経費がかさむうえ、値引幅を大きくしたり、付属品や取付工事等のサービスをするなどしなければならないのであつて、原告の営業の実情に鑑みれば、平均値を用いて推計を行うことは不合理であるといわなければならない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1(課税経緯)の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、本件各更正及び本件各賦課決定の適法性について検討する。

二  本件調査手続の適法性について

原告は請求原因2(一)(1)ないし(4)のとおり、本件調査手続が違法であるからこれに基いてなされた本件各更正は違法である旨主張する。

ところで、税務調査は、課税庁が課税標準及び税額等を認定するに当たりその資料を収集するための手続というにとどまるのであつて、右調査手続自体が課税処分の要件となるものではないから、調査手続が違法であるからといつて、このことのみで課税処分が違法になるとはいえず、また、課税処分取消訴訟は客観的に所得の有無を争うものであるから、違法な調査手続によつて収集された資料に基づいて課税処分がなされたとしても、右課税処分が客観的な所得に合致する限りにおいては適法であつて、右資料が違法な調査手続により収集されたからといつて直ちにこれに基づく課税処分が違法であることにはならないものであり、ただ、調査の手続が公序良俗に反する等その違法性の程度が著しい場合には、これによつて収集された資料を課税処分の資料として用いることは許されず、その結果、他の資料によつては当該処分を導くことができないために、当該処分が違法との評価を受けることがあり得るにとどまると解するのが相当である。

従つて、原告の前記主張は、仮にその主張のとおり本件調査手続が違法であるとしても、このことから直ちに本件各更正及び本件各賦課決定が違法になることにはならないし、その主張する手続の違法がこれにより収集された資料を課税処分の資料として用いることが許されない程度に至つているものともいえないから、主張自体失当といわなければならない(なお、後記三2で判示するとおり、本件調査手続は全て適法であつて、原告の主張するような違法事由はない。)。

三  推計の必要性について

本件各更正が推計による方法を採用し原告の所得を算出してなされたものであることは、当事者間に争いがない。

1  まず、被告は、その裁量により実額課税又は推計による課税のいずれの方法をとることも許されると解すべきである旨主張するけれども、所得税法の趣旨に照らして、課税庁が課税標準及び税額等を認定するに当たつてはその実額によるのが原則であるというべく、そうであれば、推計による課税処分が許容されるのは、納税義務者が収支を明らかにしうる帳簿書類を備え付けていないか、帳簿書類を備え付けていても記帳が不正確であるとか、納税義務者が税務調査に非協力的である等のため実額の把握が不可能又は著しく困難であるような例外的な場合に限られ、実額の把握が可能であつたにもかかわらず、推計により課税処分をした場合には、原則として、右推計された所得額が実額と合致しているか否かを問わず、違法として取消しを免れないと解するのが相当である。

2  次に原告は、被告が原告に対する質問検査によつてその所得の実額を把握することが可能であつたにもかかわらず、原告に対する質問検査をしないで、反面調査を実施し、これに基づき推計による課税をした旨主張するので、以下、推計の必要性について検討する。

(一)  被告の部下職員が、昭和五五年九月一九日及び同年一〇月三日の二回にわたり原告方に赴いたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、証人久保和彦の証言、原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 原告は、別表一の1ないし3の各確定申告欄記載のとおり、本件各係争年分の確定申告をした(右事実は前記のとおり当事者間に争いがない。)。

被告は、昭和五五年に至つて、原告の提出した本件各係争年分の確定申告書を検討したが、右各申告書の所得金額欄には、いずれも所得金額の記載があるのみで、収入金額及び必要経費の記載がなく、収支明細書その他右所得金額を裏付けるに足りる帳簿、伝票等も添付されておらず、また、右各申告所得金額が同業者に比し過少の疑いがあつたうえ、原告については従前調査を実施していなかつたこともあつて、原告の右各申告所得金額が適正に算出されたものであるかどうかについて調査する必要があると認めた。

(2) そこで、被告の部下職員である那覇税務署所得税第二部門の事務官木村盛易及び同久保和彦(以下「木村ら」という。)は、調査のため、事前に被告と日程を調整のうえ、昭和五五年九月一九日午後一時ころ、原告の店舗に赴いたところ、原告のほかに民主商工会事務局員、同業者等七名の者が待機していた。木村らは、原告に対し、本件各係争年分の所得税の調査に来た旨告げ、帳簿書類の提示を求めるとともに、第三者の退席を求めたところ、原告は、調査の理由を問うたうえ第三者の立会等を要求したので、木村らは、原告が申告した所得金額が正しいか否かを調査するためのものであること、第三者の立会は認められないことを告げて調査に協力するよう求めたが、原告がこれに応ぜず、帳簿書類の提示を受けることができなかつたので、結局、再度来訪することとしてその日は帰庁した。

(3) その後、木村らは、同月二五日に、原告に対し、電話で、次回の調査日を同年一〇月三日に定め、その際の調査には協力するよう要請したが、原告は、前回と同様、調査の理由を問うたうえ第三者の立会等の要求を繰り返すのみであつた。

(4) そして、木村らが同月三日に原告の店舗を訪れると、前回と同様に原告のほかに民主商工会事務局員、同業者等六名の者が待機していたので、木村らは、第三者の立会は調査に支障を来たし、守秘義務との関係でも認められない旨告げて、退席させるよう求めたが、原告は、勉強のために来ている等と言つてこれに応ぜず、また、木村らが調査に協力し帳簿書類を提示するよう要請したのに対しても、原告は、申告書が受け付けられているからそれが正しい、正しくないというのであればそういう資料を見せてくれ等と言つて応ぜず、結局、木村らはこの日も帳簿書類の提示を受けることができなかつた。

(5) 更に、木村らは、その一週間くらい後に、原告に対し、電話で、調査への協力を要請したが、前と同様のやりとりに終始したため、やむを得ず、原告の仕入取引先である沖縄ソニー販売株式会社及び沖縄日立家電株式会社に対する反面調査を実施したが、売上金額等については実額を把握することができなかつたので同業者を選定して推計により算出し、これに基づき原告の所得金額を算定した。そして、木村らは、右算定した所得金額について説明するため、同年一二月一日、原告に対し、電話で、来署の依頼と特別経費があれば明らかにするよう告げたが、原告は来署しなかつたので、被告は、別表一の1ないし3の各更正・賦課決定欄記載のとおり、本件各更正及び本件各賦課決定をした(被告が右のとおり本件各更正及び本件各賦課決定をしたことは前記のとおり当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は、いずれも前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)(1)  ところで、税務職員が納税者に対して行う質問検査(所得税法二三四条一項一号)、納税者の取引先等に対して行う質問検査(いわゆる反面調査。同条一項三号)は、権限を有する税務職員において、調査の目的、調査すべき事項、申請、申告の体裁内容、帳簿等の記入保存状況、相手方の事業の形態等諸般の事情に鑑み、客観的な必要性があると判断される場合に、これを行うことができるものであり、確定申告後に行われる所得税に関する調査については、過少申告であることが相当程度に推認できる場合のみならず、申告の適否すなわち申告の真実性、正確性を確認する必要性が存する場合をも含むものと解される。

これを本件についてみるに、右(一)で確定した事実によれば、原告の提出した本件各係争年分の確定申告書の所得金額欄には、いずれも所得金額の記載があるのみで、収入金額及び必要経費の記載がなく、収支明細書その他右所得金額を裏付けるに足りる帳簿、伝票等も添付されていなかつたので、所得金額の算出根拠が全く不明であり、原告の申告が適正になされていたかを疑うに足りる合理的な理由があつたうえ、更に右所得金額が同業者に比し過少の疑いがあり、また、原告については従前調査を実施していなかつたというのであるから、本件調査当時、被告において、申告の適否を調査する必要を認め、そのために質問検査を実施する必要性があると判断したことは相当である。

(2) 次に、税務職員が行う質問検査は、前記のとおり、権限を有する税務職員において、諸般の事情に鑑み客観的な必要性があると判断される場合に、これを行うことができるものであるが、この場合の質問検査の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきである。そして、質問検査を実施するに当たつて、調査の理由及び必要性を個別的、具体的に告知すべきことが法律上の要件とされているものではなく、また、第三者の立会を肯認すべき法律上の規定は存しないのであるから、調査の理由及び必要性を具体的に告知するか否か及び第三者の立会を認めるか否かは、税務職員の合理的な裁量に委ねられていると解される。従つて、被告の部下職員が調査の理由及び必要性の具体的な告知及び第三者の立会を拒絶したからといつて、右原告に対する調査手続が違法であるとはいえず、その他本件に現れた全証拠によつても、原告に対する質問検査を実施するに当たつて、被告の部下職員のとつた措置に何らかの違法の点があるとは認められない。しかるに、原告は、執拗に調査の理由及び必要性の具体的な告知及び第三者の立会を要求し、右要求が容れられない限り質問検査に応じないものと判断されるような態度に出たのであるから、もはや原告に対する質問検査によつて原告の所得の実額を把握することは不可能であつたものというべく、そうであれば、被告の部下職員がそれ以上の説得を断念し、原告に対する質問検査を打ち切つたことはやむを得ないといわなければならない。

(3) そして、被告の部下職員は、原告の仕入取引先に対する反面調査を実施したものであるが、反面調査の実施についても、前示したとおり、質問検査の一環として、その必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な程度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられていると解すべきであつて、原告が主張するように、反面調査が、納税者に対する調査のみによつては課税標準及び税額等の把握ができない場合に限られ、かつその限度でのみ補充的に許されると解すべき理由はなく、加えて、本件においては、前記のとおり、被告の部下職員は、原告に対する質問検査によつては原告の所得の実額を把握することができなかつたため、やむなく反面調査を実施したものであるから、右反面調査には何ら違法の廉はない。

(三)  以上のとおり、本件調査手続には何ら違法な点は認められないところ、被告は、右調査過程において、原告からは帳簿書類等の提示を受けることができず、やむなく反面調査を実施したものの、その結果によつても結局所得の実額を把握することができなかつたものであるから、推計の必要性があつたことは明らかである。

四  事業所得の金額について

1  被告は、推計の方法により、原価販売商品以外の商品について売上原価に基づいて売上金額を算出し、更に売上金額(右算出に係る原価販売商品以外の商品の売上金額及び原価販売商品の売上金額)から一般経費を算出しているので(なお、被告は雇人費についても推計の方法によりこれを算出しているものであるけれども、右雇人費については、後述のとおり、当事者間に争いがない。)、まず、その合理性について検討する。

(一)  証人呉屋昌治の証言及びこれにより真正に作成されたものと認めることができる乙第六号証の一、二並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 沖縄国税事務所長は、被告に対し、昭和五七年一二月二三日付で「税務訴訟に関する資料について」と題する通達を発し、那覇税務署管内に事業所を有して家庭用電気器具小売業を営む個人のうちから、本件係争各年分について、次の〈1〉ないし〈5〉のいずれの基準にも該当する者全員の課税事績の報告を求め、被告は、沖縄国税事務所長に対し、昭和五八年一月一七日付で、右基準に基づき、その該当者として各年分とも七名の小売業者の課税事績を報告した。

〈1〉 青色申告の承認を受けていること

〈2〉 年間を通して家庭用電気器具小売業を営んでいること

〈3〉 家庭用電気器具の売上原価の金額が、昭和五二年分については二一〇〇万円以上八四〇〇万円以下、昭和五三年分については二五〇〇万円以上一億〇二〇〇万円以下、昭和五四年分については二四〇〇万円以上九七〇〇万円以下の範囲内であること

〈4〉 災害等により経営状態が異常であると認められる者でないこと

〈5〉 税務署長から更正又は決定処分がなされている場合には、国税通則法又は行政事件訴訟法の各規定による不服申立期間及び出訴期間が経過しているか、当該処分に対する不服申立の処理及び訴訟が終結していること

(2) 右七名の課税事績に基づき、本件係争各年分の平均売買差益率(七名の各売買差益率(売上金額から売上原価を控除した数値を売上金額で除したもの)の平均値)を算出すると、昭和五二年分が一九・六二パーセント、昭和五三年分が一九・五八パーセント、昭和五四年分が一七・九七パーセントとなり、また、同様に、本件係争各年分の平均一般経費率(七名の各一般経費率(一般経費を売上金額で除したもの)の平均値)を算出すると、昭和五二年分が八・四八パーセント、昭和五三年分が七・六一パーセント、昭和五四年分が七・六〇パーセントとなる。

以上のとおり認められる。

(二)(1)  右事実によれば、右同業者の選定基準は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであつて、右同業者の選定に当たつて被告の恣意が介在する余地も認められず、また、右各同業者は、いずれも年間を通じて事業を継続する青色申告者であつて、その申告が確定していることから、右同業者の所得額等の算出根拠となる資料は正確性が高いものであり、しかも、選定された同業者は各年分とも各七名であつて、同業者の個別性を平均化するに足りる件数であると思料される。

以上によれば、被告は、推計の基礎となる事実を適切に選択し、かつ、右事実を的確に把握したということができ、また、右同業者の営業は原告のそれとかなりの類似性を有しているものと認めることができるから、右同業者の売買差益率及び一般経費率は、原告のそれと近似性を有するものと推認できる。従つて、右同業者の売買差益率及び一般経費率の平均値により原告の所得額を推計することは合理性があるといわなければならない。

(2)〈1〉 なお、原告は、被告の行つた同業者比率による推計に合理性があるといえるためには、類似同業者とされた七名の者の営業について、規模、形態、年数、立地条件等営業の諸要素が原告のそれとそれぞれ客観的に類似していなければならないから、被告の行つた推計には合理性がないと主張する。しかしながら、推計課税は納税者の所得金額の実額が把握できない場合に、推計により実額に近似するものとして算出された数値をもつて一応真実の所得金額と認定して課税するものであるから、納税者と対比されるべき同業者の営業が当該納税者のそれと細部に至るまで完全に一致する必要はなく、その主要な点において類似していれば足りるものであり、そして、前記(1)で判示したとおり、本件における同業者の選定基準は、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであつて、右基準により選定された同業者は、業種の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性等営業の主要な点において原告のそれと類似し、所得推計の資料とするに足りる客観性を有しているということができるから、原告の右主張は理由がない。

更に、原告は、被告が、右同業者の住所、氏名を伏しているばかりか、その営業の規模、形態、年数、立地条件等営業の諸要素を明らかにしないので、原告のそれと比較検討することができず、これに対する反証の手段を有しないものであつて、公平の見地からみても、また、訴訟における信義則からみても許されない旨主張するが、被告が右同業者の住所、氏名等を明らかにしないのは守秘義務(所得税法二四三条)との関係上やむを得ないところであり、また、この場合でも、原告において、帳簿書類等を提出するなどして反証を行うことは可能であつて、原告が反証の手段を全く奪われるわけではなく、訴訟の追行上原告に著しい不利益をもたらすことにはならないものであるから、当事者間の公平又は訴訟における信義則に反するものとはいえず、そうであれば、原告の右主張もまた理由がない。

〈2〉 また、原告は、原告の営業の規模、形態、年数、立地条件等の営業条件に鑑みれば、同業者の平均値を用いて推計を行うことは不合理である旨主張する。

ところで、平均値を用いて推計する場合には、同業者に通常存在する程度の営業条件の差異は平均化されうるものであるから、前述したように、推計の基礎的要件に欠けるところがない以上、納税者の個別的営業条件のいかんは、これが当該平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限りは、斟酌することを要しないと解される。

これを本件についてみるに、なるほど原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証(同号証の書込み部分については、原告本人尋問の結果により真正に作成されたものと認められる。)並びに原告本人尋問の結果によれば、原告の近隣の同業四店舗が昭和五四年から五六年ころの間に廃業した事実があることが認められるけれども、そうであるからといつて、廃業が原告の店舗のある地域のみに限られていたとは到底いい難く、また、大型家電販売店の影響は、ひとり原告のみが受けているものではなく、周辺の家電販売店すべてが同様に受けているものと考えられるし、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告程度の規模の営業においては多少とも外交販売によらざるを得ないことが認められるのであるから、原告の営業形態が家庭用電気器具小売業として特異なものともいい難いところであり、その他本件全証拠によつても、原告が劣悪であると主張するところの営業条件が、同業者の平均値による推計を不合理ならしめる程度に顕著なものであることを認めるに足りない(なお、原告は、本人尋問において、原告の売買差益率は約五パーセント程度にとどまる旨供述しているが、さらに進んで帳簿書類その他右供述を裏付けるに足りる適格な証拠を提出していないことに鑑みれば、原告の右供述はにわかに措信することはできないといわなければならない。)。従つて、原告の右主張も理由がない。

2  事業所得の金額について

(一)  そこで、原告の本件係争各年分の事業所得の金額について検討する。

(1) 売上金額

〈1〉 原価販売商品に係る仕入金額が別表三の〈2〉記載の各金額であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、家電器具販売業においては顧客からの注文品について在庫がない場合には同業者間で仕入金額をもつて互いに融通するという慣行があり、右慣行により融通した原価販売商品については、売上による差益が生じないことが認められ、右事実によれば、原価販売商品に係る売上金額は、仕入金額と同額になるから、昭和五二年分が一七九万四五四〇円、昭和五三年分が一九八万一〇四五円、昭和五四年分が二九〇万〇二三〇円となる。

次に、後記のとおり、売上原価の額は当事者間に争いがないところ、右売上原価の額から原価販売商品に係る売上原価(仕入金額)の額を控除した額が、原価販売商品以外の商品に係る売上原価の額になるから、右1に判示したところに従い、これに本件の各同業者の売買差益率の平均値を適用して原告の本件係争各年分の原価販売商品以外の商品に係る売上金額を算出すると、昭和五二年分が五二六三万九五六五円、昭和五三年分が六三六九万四六七七円、昭和五四年分が五九三七万一七三八円となる。

〈2〉 そして、原価販売商品に係る売上金額と原価販売商品以外の商品に係る売上金額との合計が、売上金額になるから、〈1〉により算出したところにより原告の本件係争各年分の売上金額を算出すると、昭和五二年分が五四四三万四一〇五円、昭和五三年分が六五六七万五七二二円、昭和五四年分が六二二七万一九六八円となる。

(2) 売上原価

売上原価は、原告の仕入取引先である沖縄ソニー販売株式会社及び沖縄日立家電株式会社からの本件係争各年分の仕入金額の合計額であつて、昭和五二年分が四四一〇万六二二二円、昭和五三年分が五三二〇万四三〇四円、昭和五四年分が五一六〇万二八六七円であることは、当事者間に争いがない。

(3) 一般経費

右1に判示したところに従い、(一)により算出した売上金額に本件の各同業者の一般経費率の平均値を乗じて原告の本件係争各年分の一般経費の額を算出すると、昭和五二年分が四六一万六〇一二円、昭和五三年分が四九九万七九二二円、昭和五四年分が四七三万二六七〇円となる。

(4) 雇人費

本件の各同業者の本件係争各年分の雇人一人当たりの平均的な給料賃金を算定し、原告の雇人を各年分とも二人として、各年分の雇人費の額を算出すると、昭和五二年分が二七九万一六五六円、昭和五三年分が三〇二万六五九二円、昭和五四年分が三二四万九六五八円となる(なお、原告は、各年分に支出した雇人費の額が、右算出に係る各金額を上回るものでないことを認める。)。

(5) 店舗賃借料

原告が店舗の賃貸人四條昌信に対し別表二の〈5〉欄記載のとおり、本件各係争年分の賃借料として各金四二万円を支払つたことは当事者間に争いがない。

(6) 雑収入

原告が仕入取引先である沖縄ソニー販売株式会社及び沖縄日立家電株式会社からリベートとして別表二の〈6〉欄記載の金額の支払を受けたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、原告の本件係争各年分の雑収入の額は、昭和五二年分が二五一万〇六二七円、昭和五三年分が四〇四万九七八〇円、昭和五四年分が四三五万二八九七円となる。

(二)  以上に基づき、原告の本件係争各年分の事業所得の金額を算出すると、昭和五二年分が五〇一万〇八四二円、昭和五三年分が八〇七万六六八四円、昭和五四年分が六六一万九六七〇円となる。

3  そうすると、本件各更正は、原告の本件係争各年分の事業所得の金額の範囲内でなされたものであるから、所得を過大に認定した違法はないといわなければならない。

また、以上によれば、原告は本件係争各年分の確定申告に際し所得金額及び納付すべき税額について過少申告をしたことになるから、被告が、国税通則法(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。以下同じ。)六五条一項に基づき、本件各更正により新たに納付すべき税額(同法一一八条三項により一〇〇〇円未満は切捨て。ただし、昭和五二年分については、昭和五三年法律第四五号一二条二項一号により、同法による特別減税額を加算した五三万五〇〇〇円。)にそれぞれ一〇〇分の五を乗じた金額(国税通則法一一九条四項により一〇〇円未満の端数は切捨て。)の過少申告加算税を賦課した本件各賦課決定も、また適法である。

五  以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明 浜秀樹 高野輝久)

(別表一)

本件課税処分の経緯

1 昭和五二年分

年月日(昭和)

事業所得の金額

所得税額

過少申告加算税額

確定申告

五三年三月一三日

一四五万五八〇〇円

一万二〇〇〇円

更正・賦課決定

五五年一二月二七日

四九四万四三七五円

五三万二六〇〇円

二万六七〇〇円

異議申立て

五六年二月一九日

一四五万五八〇〇円

一万二〇〇〇円

異議決定

五六年五月一九日

棄却

審査請求

五六年六月一八日

一四五万五八〇〇円

一万二〇〇〇円

裁決

五七年三月三一日

棄却

2 昭和五三年分

年月日(昭和)

事業所得の金額

所得税額

過少申告加算税額

確定申告

五四年三月一三日

一四〇万〇九六一円

九七〇〇円

更正・賦課決定

五五年一二月二七日

七五二万七八〇〇円

一二〇万七二〇〇円

五万九八〇〇円

異議申立て

五六年二月一九日

一四〇万〇九六一円

九七〇〇円

異議決定

五六年五月一九日

棄却

審査請求

五六年六月一八日

一四〇万〇九六一円

九七〇〇円

裁決

五七年三月三一日

棄却

3 昭和五四年分

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年月日(昭和)

事業所得の金額

所得税額

過少申告加算税額

確定申告

五五年 三月一三日

一四二万一〇〇〇円

一万円

更正・賦課決定

五五年一二月二七日

六三三万〇五八四円

八七万二四〇〇円

四万三一〇〇円

異議申立て

五六年 二月一九日

一四二万一〇〇〇円

一万円

異議決定

五六年 五月一九日

棄          却

審査請求

五六年 六月一八日

一四二万一〇〇〇円

一万円

裁決

五七年 三月三一日

棄          却

(別紙二)  事業所得金額の計算

科目

年分

昭和五二年分

昭和五三年分

昭和五四年分

〈1〉 売上金額

五四四三万四一〇五円

六五六七万五七二二円

六二二七万一九六八円

〈2〉 売上原価の額

四四一〇万六二二二円

五三二〇万四三〇四円

五一六〇万二八六七円

〈3〉 一般経費の額

四六一万六〇一二円

四九九万七九二二円

四七三万二六七〇円

〈4〉 雇人費の額

二七九万一六五六円

三〇二万六五九二円

三二四万九六五八円

〈5〉 店舗賃借料の額

四二万円

四二万円

四二万円

〈6〉 雑収入の額

二五一万〇六二七円

四〇四万九七八〇円

四三五万二八九七円

〈7〉 事業所得の金額

五〇一万〇八四二円

八〇七万六六八四円

六六一万九六七〇円

(別紙三)  売上金額の計算

科目

年分

昭和五二年分

昭和五三年分

昭和五四年分

〈1〉 売上原価の額

四四一〇万六二二二円

五三二〇万四三〇四円

五一六〇万二八六七円

〈2〉 原価販売商品に係る仕入金額

一七九万四五四〇円

一九八万一〇四五円

二九〇万〇二三〇円

〈3〉 差引売上原価の額(〈1〉-〈2〉)

四二三一万一六八二円

五一二二万三二五九円

四八七〇万二六三七円

〈4〉 売買差益率

〇・一九六二

〇・一九五八

〇・一七九七

〈5〉 原価販売商品以外の売上金額

(〈3〉/(1-〈4〉))

五二六三万九五六五円

六三六九万四六七七円

五九三七万一七三八円

〈6〉 原価販売商品に係る売上金額

一七九万四五四〇円

一九八万一〇四五円

二九〇万〇二三〇円

〈7〉 売上金額(〈5〉+〈6〉)

五四四三万四一〇五円

六五六七万五七二二円

六二二七万一九六八円

(別紙四)  仕入取引先からの仕入金額

仕入先取引先

年分

昭和五二年分

昭和五三年分

昭和五四年分

沖縄ソニー販売株式会社

二二三六万〇一六六円

三八九三万七五八三円

三九〇五万〇六七五円

沖縄日立家電株式会社

二一七四万六〇五六円

一四二六万六七二一円

一二五五万二一九二円

合計

四四一〇万六二二二円

五三二〇万四三〇四円

五一六〇万二八六七円

(別表五)  一般経費の額の計算

科目

年分

昭和五二年分

昭和五三年分

昭和五四年分

〈1〉売上金額

五四四三万四一〇五円

六五六七万五七二二円

六二二七万一九六八円

〈2〉一般経費率

〇・〇八四八

〇・〇七六一

〇・〇七六〇

〈3〉一般経費の額(〈1〉×〈2〉)

四六一万六〇一二円

四九九万七九二二円

四七三万二六七〇円

(別表六)  仕入取引先からのリベート

仕入取引先

年分

昭和五二年分

昭和五三年分

昭和五四年分

沖縄ソニー販売株式会社

一六八万一二九六円

三六七万六九八九円

四〇三万四九二七円

沖縄日立家電株式会社

八二万九三三一円

三七万二七九一円

三一万七九七〇円

合計

二五一万〇六二七円

四〇四万九七八〇円

四三五万二八九七円

(別表七)  同業者の売買差益率、一般経費率について(昭和五二年分)

〈1〉売上金額

〈2〉売上原価

〈3〉売買差益金額

(〈1〉-〈2〉)

〈4〉一般経費

分析比率

〈5〉売買差益率

(〈3〉÷〈1〉)

〈6〉一般経費率

(〈4〉÷〈1〉)

二七七四万七四五七円

二四一一万六〇〇一円

三六三万一四五六円

二三九万一九二七円

一三・〇九%

八・六二%

七四二三万六〇三九円

六二九九万七八二六円

一一二三万八二一三円

五三一万九三〇五円

一五・一四%

七・一七%

四三〇〇万八八一六円

三四三三万二四〇九円

八六七万六四〇七円

四六二万八四四二円

二〇・一七%

一〇・七六%

七五二八万九〇八八円

六三二四万五一五七円

一二〇四万三九三一円

四〇一万二三六二円

一六・〇〇%

五・三三%

四二九二万四九四一円

三二二一万九八一三円

一〇七〇万五一二八円

四五四万一四九三円

二四・九四%

一〇・五八%

五三二五万八〇三〇円

三九五〇万六八四七円

一三七五万一一八三円

四一四万四八五四円

二五・八二%

七・七八%

五三九五万四八四五円

四一九九万一一七八円

一一九六万三六六七円

四九二万二一七三円

二二・一七%

九・一二%

――

――

――

――

一三七・三三%

五九・三六%

――

――

――

――

一九・六二%

八・四八%

(別表八)  同業者の売買差益率、一般経費率について(昭和五三年分)

〈1〉売上金額

〈2〉売上原価

〈3〉売買差益金額

(〈1〉-〈2〉)

〈4〉一般経費

分析比率

〈5〉売買差益率

(〈3〉÷〈1〉)

〈6〉一般経費率

(〈4〉÷〈1〉)

三五八三万一〇六七円

三〇三四万一四五七円

五四八万九六一〇円

二九八万九四四一円

一五・三二%

八・三四%

六七九四万九七四八円

五六七九万五六九九円

一一一五万四〇四九円

四八六万八五四〇円

一六・四二%

七・一六%

四三三九万〇八〇六円

三四六五万二一六〇円

八七三万八六四六円

三七四万六五三九円

二〇・一四%

八・六三%

七二七七万七〇四七円

六一五八万二四七〇円

一一一九万四五七七円

三二二万四九二二円

一五・二八%

四・四三%

六六〇二万四五二六円

五一九五万六一一七円

一四〇七万一四〇九円

四六七万二九三五円

二一・三一%

七・〇八%

五一六九万三三五五円

三九二二万一六八五円

一二四七万一六七〇円

四四八万三七三三円

二四・一三%

八・六七%

六〇二八万九〇七二円

四五五九万七四七四円

一四六九万一五九八円

五四一万九七九六円

二四・三七%

八・九九%

――

――

――

――

一三七・〇七%

五三・三〇%

――

――

――

――

一九・五八%

七・六一%

(別表九)  同業者の売買差益率、一般経費率について(昭和五四年分)

〈1〉売上金額

〈2〉売上原価

〈3〉売買差益金額

(〈1〉-〈2〉)

〈4〉一般経費

分析比率

〈5〉売買差益率

(〈3〉÷〈1〉)

〈6〉一般経費率

(〈4〉÷〈1〉)

四二四五万五七四三円

三五四四万九九二七円

七〇〇万五八一六円

二八〇万〇一一五円

一六・五〇%

六・六〇%

六八〇四万五九二八円

五七九六万三六三八円

一〇〇八万二二九〇円

四九五万五七〇〇円

一四・八二%

七・二八%

六〇六九万七四〇六円

四八七六万九八二五円

一一九二万七五八一円

四三七万〇〇三九円

一九・六六%

七・二〇%

七五三〇万七九五六円

六七〇八万三六〇九円

八二二万四三四七円

三五一万六五〇一円

一〇・九二%

四・六七%

九六六七万七八九〇円

七八九九万三九九二円

一七六八万三八九八円

九三五万一一一七円

一八・二九%

九・六七%

五七一七万八二〇四円

四三六三万四八九六円

一三五四万三三〇八円

五一四万〇二五〇円

二三・六八%

八・九九%

七二四九万三三〇五円

五六五九万四六六九円

一五八九万八六三六円

六三七万八七九二円

二一・九三%

八・八〇%

――

――

――

――

一二五・八〇%

五三・二一%

――

――

――

――

一七・九七%

七・六〇%

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